雲亭日本古典図書室収録作品の一覧

市振の宿

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おくのほそ道 / 松尾芭蕉 / 第41節 / 全56節

今日は親不知、子不知、犬戻り、駒返しといった北国一の難所を越え、疲れて枕を引き寄せて寝た。

本文 現代語訳

今日は親不知子知らず犬もとり駒返しなどいふ北國一の難所をこえてつかれ侍れば枕引よせてねたるに一間へだてゝ西の方に若き女の聲二人ばかりと聞ゆ年よりたる男の聲も交りて物語するをきけば越後國新潟といふ處の遊女なりしいせ參宮するとて此關まで男の送りてあすは古鄕にかへす文したゝめてはかなき言傳などしやる也
今日は親不知、子不知、犬戻り、駒返しといった北国一の難所を越え、疲れて枕を引き寄せて寝た。部屋一つを隔てた西側から、若い女二人ほどの声が聞こえる。年配の男の声も交じる。話を聞くと、越後の新潟の遊女で、伊勢参宮のため、この関まで男に送ってもらったらしい。明日は男を故郷へ帰すので、手紙を書き、細々と言づけを託している。
白波のよする渚に身をはふらかしあまのこの世を淺ましう下りて定めなき契日々の業因いかにつたなしと物いふをきゝ〳〵ねいりて朝たび立に我らにむかひて行衞しらぬ旅路のうさ餘り覺束なうかなしく侍れば見へがくれにも御跡をしたひ侍ん衣のうへの御情に大悲のめぐみをたれて結緣せさせ給へと泪を落す不便の事には侍れども我らは所々にてとまるかた多したゞ人の行くにまかせて行くべし神明の加護必ずつゝがなかるべしといひすてゝ出つゝ哀さしばらくやまざりけらし
白波の寄せる浜辺で身を寄る辺なく暮らし、定まらぬ客との縁を日々の生業とする自分たちは、なんと不幸なのか。そう語るのを聞きながら眠った。朝、出発しようとすると、二人は「行く先も知らない旅は心細く悲しいので、せめてお姿が見え隠れするほどのお供をさせてください。僧衣にかけてのお情けで、仏の慈悲との縁を結ばせてください」と涙を落とした。気の毒ではあるが、「私たちはあちこち立ち寄る所が多いのです。ほかの人が行くのについてお行きなさい。神々のお守りで、きっと無事でしょう」と言い残して出た。哀れな思いは、しばらく消えなかった。
一家に遊女も寢たり萩と月
一つ屋根の下に遊女も寝ている。庭には萩、空には月。
曾良にかたればかきとゝめ侍る
この句を曾良に話すと、書き留めてくれた。
原文 / 転記元の異文注を整理

今日は親不知子知らず犬もとり駒返しなどいふ北國一の難所をこえてつかれ侍れば枕引よせてねたるに一間へだてゝ西の方に若き女の聲二人ばかりと聞ゆ年よりたる男の聲も交りて物語するをきけば越後國新潟といふ處の遊女なりしいせ參宮するとて此關まで男の送りてあすは古鄕にかへす文したゝめてはかなき言傳などしやる也

白波のよする渚に身をはふらかしあまのこの世を淺ましう下りて定めなき契日々の業因いかにつたなしと物いふをきゝ〳〵ねいりて朝たび立に我らにむかひて行衞しらぬ旅路のうさ餘り覺束なうかなしく侍れば見へがくれにも御跡をしたひ侍ん衣のうへの御情に大悲のめぐみをたれて結緣せさせ給へと泪を落す不便の事には侍れども我らは所々にてとまるかた多したゞ人の行くにまかせて行くべし神明の加護必ずつゝがなかるべしといひすてゝ出つゝ哀さしばらくやまざりけらし

一家に遊女も寢たり萩と月

曾良にかたればかきとゝめ侍る

AI試訳 / 専門家未校閲