雲亭日本古典図書室収録作品の一覧

松島

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おくのほそ道 / 松尾芭蕉 / 第26節 / 全56節

もう正午に近い。

本文 現代語訳

日既に午に近し舟をかりて松島に渡る其間二里餘雄じまの礒につく
もう正午に近い。舟を借りて松島へ渡った。二里余りを進み、雄島の磯に着く。
抑事ふりにたれど松島は扶桑第一の好風にして凡洞庭西湖をはぢず東南より海入て(にヲ落セシナラン)江の中三里浙江の潮をたゝゆ島々の數を盡して欹ものは天を指ふすものは波に匍匐あるは二重にかさなり三重にたゝみて左にわかれ右に連る負るあり抱あり兒孫を愛するがごとし松のみどり濃に枝葉汐風に吹たはめて屈曲をのづからためたるがごとし其けしき窅然として美人の顏を粧ちはやぶる神の昔大やまずみのなせるわざにや造化の天工いづれの人か筆を揮ひ詞をつくさん
言い古されたことではあるが、松島は日本一の景勝地で、中国の洞庭湖や西湖にも引けを取らない。東南から海が入り、湾は三里にわたり、浙江のように潮をたたえている。島々は数えきれず、そびえて天を指すもの、伏せて波に這うもの、二重三重に重なるもの、左に分かれ右に連なるものがある。背負ったり抱き寄せたりする姿は、子や孫を愛するようだ。松の緑は濃く、枝葉は潮風に曲げられ、自然に形を整えたようである。その景色は奥深く、美人が顔を装うようでもある。神代の昔、大山祇の神が作ったのであろうか。自然の巧みな仕事を、誰が筆や言葉で尽くせよう。
雄島がいそは地づつきて海に出たる島也雲居禪師の別室の跡坐禪の石など有りはた松の木陰に世をいとふ人もまれ〳〵見へ侍りて落穗松笠などうち烟たる艸の庵しづかにすみなしいかなる人ともしられずなから先懷敷立寄るほどに月海にうつりて晝のなかめ又改む江上にかへりて宿を求れば窓をひらき二階をつくりて風雲の中に旅寢するこそあやしき迄妙なる心地はせらるれ
雄島は、磯が陸に続いて海へ突き出た島である。雲居禅師の別室の跡や、座禅をした石などがある。松の木陰には、世俗を離れた人も時折見える。落穂や松笠をくすぶらせる草の庵を静かな住まいにしている。どのような人か知らなくても懐かしく、立ち寄るうち、月が海に映り、昼とはまた景色が変わった。岸へ戻って宿を求めると、窓のある二階に泊まることができ、風と雲の中で旅寝するような、驚くほどすばらしい心地がした。
松島や鶴に身をかれ時鳥  曾良
松島を飛ぶほととぎすよ、この景色にふさわしく、鶴の姿を借りておくれ。 曾良
予は口を閉て眠らんとしてねられず舊庵をわかるゝ時素堂松島の詩有原安適松がうら島の和歌を送らる袋をといてこよひの友とす且杉風濁子が發句あり
私は口を閉ざし、眠ろうとしても眠れない。庵を出るとき素堂が松島の漢詩を、有原安適が松が浦島の和歌を贈ってくれた。袋を開き、今宵の友とする。杉風と濁子の発句もあった。
原文 / 転記元の異文注を整理

日既に午に近し舟をかりて松島に渡る其間二里餘雄じまの礒につく

抑事ふりにたれど松島は扶桑第一の好風にして凡洞庭西湖をはぢず東南より海入て(にヲ落セシナラン)江の中三里浙江の潮をたゝゆ島々の數を盡して欹ものは天を指ふすものは波に圃(匍ノ誤リナリ)匐あるは二重にかさなり三重にたゝみて左にわかれ右に連る負るあり抱あり兒孫を愛するがごとし松のみどり濃に枝葉汐風に吹たはめて屈曲をのづからためたるがごとし其けしき窅然として美人の顏を粧ちはやぶる神の昔大やまずみのなせるわざにや造化の天工いづれの人か筆を揮ひ詞をつくさん

雄島がいそは地づつきて海に出たる島也雲居禪師の別室の跡坐禪の石など有りはた松の木陰に世をいとふ人もまれ〳〵見へ侍りて落穗松笠などうち烟たる艸の庵しづかにすみなしいかなる人とも(一本はトアリ)しられずなから先懷敷立寄るほどに月海にうつりて晝のなかめ又改む江上にかへりて宿を求れば窓をひらき二階をつくりて風雲の中に旅寢するこそあやしき迄妙なる心地はせらるれ

松島や露に身をかれ時鳥  曾良

予は口を閉て眠らんとしてねられず舊庵をわかるゝ時素堂松島の詩有原安適松がうら島の和歌を送らる袋をといてこよひの友とす且杉風濁子が發句あり

注

「露」と「鶴」
保存した転記元は「露に身をかれ」。杉浦正一郎校註の本文では「鶴に身をかれ」となっており、原文欄と試訳では「鶴」を採りました。転記元の表記は下に保存しています。

AI試訳 / 専門家未校閲