雲亭日本古典図書室収録作品の一覧

銀河織女に似たる事

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兎園小説 / 曲亭馬琴ほか 兎園会の会員 / 第二集 第10話 / 文宝亭 亀屋久右衛門

南米の女だけの国と銀の河の伝聞が中国の銀河織女の伝説に似ると述べ、馬琴が『坤輿図説』のアマゾン国の記事を頭書で添える。

本文 現代語訳

銀河織女に似たる事
銀河の織女に似たこと
南亜墨利加のうちに「アマソウネン」といふ所あり。この所の山に女ばかり住みて、一年に一度河を渡りて男に逢ふといふ。その河の名を蛮語にては「リヨデラタラタ」といひ、紅毛語にては「シリフルリヒール」といふ。「シリフル」は銀なり、「リヒール」は河なり。もろこし人の言ひ伝へし銀河織女の事などは、かかる事を聞き伝へたるにや。「その山の辺に男つねに通へば、竹鎗にて防ぎて入れず」といふなれば、「阿蘭陀通事今村金兵衛の話なり」と蜀山翁申されき。〔頭書 解、按ずるに、『坤輿図説』韃而靼附録、亜瑪作搦の条下に曰く、「迤西に旧、女国あり、亜瑪作搦といふ。最も饒勇にして善く戦ひ、かつて名郡を破る。国俗、ただ春月にのみ男子を容る。ひとたびその地に至りて子を生む。男なればすなはち殺すなり。今また他国の併す所となる」と。今村生の話す所の亜瑪作搦女国の事、けだしこれに拠るなり。著作堂追記〕
南アメリカのうちに「アマソウネン」という所がある。この土地の山には女ばかりが住んでいて、一年に一度、河を渡って男に逢うという。その河の名を現地の言葉では「リヨデラタラタ」といい、オランダ語では「シリフルリヒール」という。「シリフル」は銀のことで、「リヒール」は河のことである。中国人が言い伝えてきた銀河の織女の話などは、こういう話を聞き伝えたものだろうか。「その山のあたりへ男がいつも通うと、竹槍で防いで入れない」というのだそうで、「オランダ通詞の今村金兵衛の話である」と蜀山翁が言われた。〔頭書 解が考えるに、『坤輿図説』の韃靼附録、アマゾンの条にこうある。「西の方に昔、女だけの国があり、アマゾンといった。きわめて勇猛でよく戦い、かつて名のある郡を破った。この国の風俗では春の月だけ男を入れる。男がその地に至ると子を生ませる。生まれた子が男ならすぐに殺す。今は他国に併合された」と。今村君が話したアマゾン女国の話は、おそらくこれに基づいている。著作堂追記〕
原文 / 昭和女子大学本の字句を採り、正字体を保持、振り仮名を外す

銀河織女に似たる事

南亞墨利加のうちに「アマソウネン」といふ所あり。此所の山に女ばかりすみて、一年に一度河を渡りて男に逢ふといふ。その河の名を蠻語にては「リヨデラタラタ」といひ、紅毛語にては「シリフルリヒール」といふ。「シリフル」は銀なり、「リヒール」は河なり。もろこし人のいひ傳へし銀河織女の事などは、かゝる事を聞傳へたるにや。その山の邊に男つねにかよへば、竹鎗にてふせぎて入れずといふなれば、阿蘭陀通事今村金兵衞話なりと蜀山翁申されき。〔頭書 解按、坤輿圖說韃而靼附錄亞瑪作搦條下曰、迤西舊有女國、曰亞瑪作搦。最饒勇善戰、甞破名郡。國俗惟春月容男子。一至其地生子。男輙殺也。今又爲他國所倂。今村生所話亞瑪作搦女國事、蓋據之也。著作堂追記〕

注

写本の位置
写本は3167の60カット目左ページの中ほどから61カット目右ページの前半まで。題の下に披講者の名はなく、目録は「仝」で前話の文宝亭を受ける。60カット目左ページと61カット目右ページの上欄に馬琴の追記が漢文の頭書として書かれ、訓点が付く。61カット目右ページの中ほどから第11話「元文五年の暦のはし書」が始まる。
写本の位置
写本は外国語をカタカナで書き、語の前後に鉤形の符号を付ける。原文ではその符号を「」で残した。「アマソウネン」の「ネ」は写本で「子」の字形、末尾は「ニ」とも「ン」とも読める。活字本系に従って「ネン」とし、判読を保留する。
校合
「聞傳へたる」は写本の読み。活字本系テキストは「聞き傳へたる」とする。
校合
頭書は漢文で、写本の訓点を外して原文に置き、読みやすい本文では書き下し、現代語訳では訳した。活字本系テキストは頭書を本文末尾の割注として載せる。「舊有女國」の「國」と「亞瑪作搦」の「亞」は写本では「国」「亜」の字形で、正字に統一した。
注記
アマソウネンはオランダ語でアマゾンの女人族、リヨデラタラタはスペイン語のリオデラプラタで銀の川の意、シリフルリヒールはオランダ語で銀の川の意と解した。蜀山翁は大田南畝で文政六年に没している。今村金兵衛は長崎のオランダ通詞今村家の人物。『坤輿図説』は南懐仁が著した世界地理書で、韃而靼はタタール、迤西は西の方。「解」は馬琴の名。人物と語の同定は雲亭の推定で未確認。

AI試訳 / 専門家未校閲