猫虎相似附録
猫と虎は姿も行いも似ていると、無冤録の虎の咬み方の説を引いて添える。
本文 現代語訳
美成いふ、右仏庵翁の黒猫と熊と似たる話、世人のかつて知らざる事にて、いと珍らし。また猫と虎とは形状もよく似て、歌にも猫を「手がひの虎」などよめり。しかるにその所為もまたおなじき事あり。無冤録〔巻下八十二丁〕にいふ、「虎咬死」云々。「一にいふ、月の初めには頭頂を咬み、月の中ごろには腹背を咬み、月の尽きには足を咬む。猫の鼠を咬むもまた然り」と。これらうきたることにあらず。奇といふべし。
美成が言う。右の仏庵翁の、黒猫と熊が似ているという話は、世の人がこれまで知らなかったことで、とても珍しい。また猫と虎は姿もよく似ていて、歌にも猫を「手飼いの虎」などと詠んでいる。ところがその行いにも同じところがある。無冤録〔巻下八十二丁〕に「虎咬死」の条があり、「一説に、月の初めには頭を咬み、月の半ばには腹と背を咬み、月末には足を咬む。猫が鼠を咬むのもまた同じである」という。これらは根拠のない話ではない。奇妙なことというべきである。
原文 / 昭和女子大学本の字句を採り、正字体を保持、振り仮名を外す
美成云、右佛庵翁の黑猫と熊と似たる話、世人のかつてしらざる事にて、いと珍らし。又猫と虎とは形狀もよく似て、歌にも猫を手がひの虎などよめり。しかるにその所爲も亦おなじき事あり。無寃錄〔卷下八十二丁〕云、虎咬死云々。一云、月初咬頭頂、月中咬腹背、月盡咬足。猫咬鼠亦然。これらうきたることにあらず。奇と云べし。
注
- 写本の位置
- 写本は3168の36カット目左ページの5行目から末尾まで。写本の本文には題がなく「美成云」で始まるので、題は目録の「猫虎相似附録 好問堂」を採った。37カット目右ページから第10話「猫虎相似の批評」が始まる。
- 校合
- 「月中咬腹背」は写本の読み。活字本系は「腹脊」とする。
- 校合
- 「猫咬鼠亦然」は写本の読み。活字本系は「猫咬ㇾ鼠亦然」で同じ。写本の漢文には返り点と送り仮名が付き、原文では外した。
- 注記
- 割注〔卷下八十二丁〕は36カット目左ページの8行目に小字二行で書かれている。
- 注記
- 好問堂は山崎美成。無冤録は元の王与の法医学書で、日本では無冤録述として広まった。「手がひの虎」は古今六帖の歌に見える飼い猫の異称。書名の特定は雲亭の推定で未確認。
AI試訳 / 専門家未校閲