奇病
享保十四年、本所の中間が尻に犬の尾を生じて犬のようになった話。
本文 現代語訳
享保十四年八月のころ、本所石原の徳山五郎兵衛が中間八郎、にはかに尻に犬の尾を生じ、五日の朝飯、食し兼ねしことありき。摺鉢に食を入れ与ふれば快く食す。それより人相も犬に変じ、全く犬のごとし。夜中、犬の声を聞くときは必ず飛び出す。「日ごろ犬を殺しし祟り」と皆人の伝へしなりといふ。
享保十四年八月のころ、本所石原の徳山五郎兵衛の中間八郎が、にわかに尻に犬の尾を生じ、五日の朝飯が食べられないことがあった。摺鉢に食べ物を入れて与えると気持ちよく食べる。それから人相も犬に変わって、まったく犬のようになった。夜中に犬の声を聞くと必ず飛び出す。「日ごろ犬を殺した祟りだ」と皆が言い伝えたということである。
原文 / 昭和女子大学本の字句を採り、正字体を保持、振り仮名を外す
享保十四年八月ノ頃、本所石原德山五郞兵衞中間八郞、俄ニ尻ニ犬ノ尾ヲ生シ、五日ノ朝飯食シ兼シコトアリキ。摺鉢ニ食ヲ入レ與フレハ快ク食ス。夫ヨリ人相モ犬ニ變シ、全ク犬ノ如シ。夜中犬ノ聲ヲ聞クトキハ必飛出ス。日コロ犬ヲ殺セシ祟リト皆人ノ傳ヘシナリト云。
注
- 写本の位置
- 写本は3168の62カット目右ページの前半。同じページの後半から第9話「伊勢踊」が始まる。
- 注記
- 写本に見出しはなく、第7話の見出し「虹霓 伊勢踊 琵琶笛 奇疾」に含まれる「奇疾」がこの話にあたる。目録の題は「奇病」で、passage の題は目録に従った。
- 校合
- 「人相モ犬ニ變シ」は写本の読み。活字本系テキストも「犬に變じ」とする。
- 写本の位置
- 写本は片仮名交じりの漢文訓読体で、原文は写本の片仮名をそのまま保った。
- 注記
- 徳山五郎兵衛は本所石原に住む旗本と解した。雲亭の推定で未確認。
AI試訳 / 専門家未校閲