間違草の事
食べれば一年以内に死ぬという奥州の毒草は、葉も花も年ごとに形を変える。
本文 現代語訳
間違草の事
間違草のこと
奥州吉野の辺に「まちがひ草」とて草あり。深き山谷に生じて、誤りて食すれば当時死を免るとも、一年の内必ず死す。この草、本草等にも見えず。その味甘くして、根はかなの「よ」の字に似て和草なり。根も実も甚だしく美事なり。葉の形定まらず、種々にて、四角もあり、丸きもあり、尖りたるもあり、三角もあり。細き広き花々、今年は殊の外美事に咲くといへども、来春はみにくし。年々歳々不定草なり。異性草と謂ふべし。
奥州吉野のあたりに「まちがい草」という草がある。深い山谷に生えていて、誤って食べると、そのときは死を免れても一年のうちに必ず死ぬ。この草は本草書などにも見えない。味は甘く、根は仮名の「よ」の字に似て柔らかい草である。根も実もひどく見事である。葉の形は決まっておらず、いろいろで、四角のもあれば丸いのもあり、尖ったのもあれば三角のもある。細い花や広い花が、今年はことのほか見事に咲いたとしても、来春はみにくい。年ごとに変わる定まらない草である。異性の草と言うべきだろう。
乙酉五月朔 中井乾斎誌
乙酉五月朔日 中井乾斎 誌
原文 / 昭和女子大学本の字句を採り、正字体を保持、振り仮名を外す
間違草の事
奧州吉野の邊にまちがひ草とて草有り。深き山谷に生じて、誤て食すれば當時死を免るとも、一年の内必死す。此草本草等にも不見。其味甘して、根はかなのよの字に似て和草なり。根も實も甚しく美事なり。葉の形定まらず、種々にて四角も有り丸きも有り尖りたるもあり三角もあり。細き廣き花々、今年は殊の外美事に咲くといへども、來春はみにくし。年々歲々不定草なり。可謂異性草。
乙酉五月朔 中井乾齋誌
注
- 写本の位置
- 写本は3169の13カット目左ページの中ほどから14カット目右ページまで。写本の本文には題がなく、小町の話に続けて「奧州吉野の邊に」と書き始める。原文欄の題は目録の「間違草の事」を採った。14カット目右ページは末尾の「年々歲々不定草なり。可謂異性草」と署名だけで、残りは白紙。14カット目左ページから第6話「定吉稲荷」が始まる。
- 校合
- 「根も實も甚しく美事なり」は写本の読み。活字本系テキストは「根も實も、甚、似たり。□□□□なり」と四字を欠く。写本では「甚」で行が改まり、次の行が「しく美事なり」と読める。原寸で切り出して読んだが、くずし字からの推定で判読を保留する。
- 校合
- 「可謂異性草」は写本では「可稱共性艸」のようにも見え、脇に朱で「謂異」と書き入れがある。活字本系テキストの「可謂異性草」と朱の書き入れに従い、判読を保留する。
- 校合
- 和草は柔らかい草の意と解した。奥州吉野は未詳の地名で、活字本系テキストの注も不詳とする。
- 注記
- 乾斎の三話はこの署名で一括して終わる。目録では三話に分けるので、雲亭でも三つの passage に分けた。
AI試訳 / 専門家未校閲