貞享四年官令
生類憐みの令のうち、貞享四年の触書と元禄八年の捨て犬詮議の書付を写す。
本文 現代語訳
附録
附録
さきに文宝子の『犬別帳』に付けて、予が記しおけるもの二条を『耽奇漫録』に附録せしに、このごろ篚底をさぐりて、また一、二条を得たり。よりて、またここに録す。
先に文宝子の『犬別帳』に添えて私が書き留めておいたもの二条を『耽奇漫録』に附録したが、このごろ手箱の底を探ってさらに一、二条を得た。そこでまたここに記す。
貞享四年卯四月の御達
貞享四年卯四月のお達し
覚
覚
一 捨子これあり候はば、早速届けに及ばず、その所の者いたわり置き、直に養い候か、または望みの者これあり候はば遣わすべし。急度届けに及ぶべき事。
一 捨て子があったら、すぐには届け出るに及ばず、その場所の者がいたわって置き、そのまま養うか、または望む者があれば与えてよい。ただし必ず届け出ること。
一 鳥類、畜類、人に疵付け候ようなる儀は、只今までの通り相届くべし。そのほか共食い、またはおのれと痛み煩い候ばかりにては届けに及ばず、随分養生いたし、主これあり候はば返し申すべき事。
一 鳥類や獣類が人に傷を負わせるような事は、今までどおり届け出ること。そのほか共食いや、自分で痛み患っているだけの場合は届け出るに及ばず、十分に養生させ、飼い主があれば返すこと。
一 主なき犬、このごろは食物給させ申さざるように相聞こえ候。畢竟、食物給させ候へば、その人の犬のように相成り、以後まで六ケ敷き事と存じ、いたわり申さずと相聞こえ、不届きに候。向後左様にこれなきよう相心得べき事。
一 飼い主のない犬に、このごろは食べ物を与えないと聞く。つまり食べ物を与えればその人の犬のようになり、あとあとまで面倒だと考えていたわらないと聞くが、不届きである。今後はそのようなことのないよう心得ること。
一 飼い置き候犬死に候はば、支配方へ届け候ように相聞こえ候。前条においてこれなき者、向後かようの届け無用の事。
一 飼っている犬が死んだら支配方へ届け出ていると聞く。前条にあたらない者は、今後そのような届けは無用である。
一 犬ばかりに限らず、生類、人の慈悲の心を元といたし、あわれの義肝要の事。
一 犬ばかりに限らず、生き物には人の慈悲の心を根本として、あわれむことが肝要である。
卯四月
卯四月
元禄八年亥十二月二十一日御渡し、捨犬の子御吟味御書付
元禄八年亥十二月二十一日にお渡しになった、捨て犬の子を詮議するお書付
覚
覚
小石川馬場近辺、屋代越中守組美濃部弥兵衛門外に、去る十八日の夜、近き頃生まれ候体の白毛の子犬二疋捨て置き候。この度町中の犬ども御吟味の上、犬小屋へこれを遣わされ候。しかる上は左様の儀、かねてこれあるまじきところ、犬捨て候段不届きに候あいだ、急度僉議いたさるべく候。組支配等これある向きには、そのむきむきにて僉議いたし、捨て候もの相知れ候ようにいたさるべく候。後日に脇より相知れ候はば、越度たるべきものなり。
小石川馬場近辺の屋代越中守組の美濃部弥兵衛の門外に、去る十八日の夜、生まれたばかりと見える白毛の子犬二匹が捨て置かれていた。このたび町中の犬をお調べの上で犬小屋へお送りになった以上は、そのようなことはあってはならないところ、犬を捨てたことは不届きであるから、必ず詮議せよ。組支配などがある向きは、それぞれの筋で詮議し、捨てた者が分かるようにせよ。後日よそから知れたときは落ち度とする。
十二月二十一日
十二月二十一日
乙酉八朔 海棠庵謄写
乙酉八朔 海棠庵謄写
原文 / 昭和女子大学本の字句を採り、正字体を保持、振り仮名を外す
附錄
嚮に文寶子の犬別帳に附て予がしるしおけるもの二條を耽奇漫錄に附錄せしにこのごろ篚底をさぐりて又一二條を得たりよりて又こゝに錄す
貞享四年卯四月の御達
覺
一 捨子有之候はゞ早速不及屆其所の者いたはり置直に養候歟又ハ望の者有之候はゞ可遣急度可及付屆事
一 鳥類畜類人に疵付候樣成儀ハ只今迄の通可相屆其外ともくひ又はおのれと痛煩候計にてハ不及屆隨分致養生主有之候はゞ返可申事
一 無主犬頃日ハ食物給させ不申樣に相聞候畢竟食物給させ候へば其人の犬の樣に相成已後まで六ケ敷事と存いたはり不申と相聞不屆に候向後左樣に無之樣可相心得事
一 飼置候犬死候はゞ支配方へ屆候樣に相聞候於前條無之者向後箇樣之屆無用事
一 犬計に不限生類人之慈悲之心を元といたしあはれの義肝要の事
卯四月
元祿八年亥十二月廿一日御渡し捨犬の子御吟味御書付
覺
小石川馬場近邊屋代越中守組美濃部彌兵衞門外に去ル十八日之夜近き頃生れ候體の白毛の子犬二疋捨置候此度町中之犬共御吟味之上犬小屋へ被遣之候然上ハ左樣之儀兼而有之間敷處犬捨候段不屆候間急度可被致僉議候組支配等有之向にハ其むきむきにて致僉議捨候もの相知候樣に可被致候後日に脇より相知候はゞ可爲越度もの也
十二月廿一日
乙酉八朔 海棠菴謄寫
注
- 写本の位置
- 写本は3170の56カット目左ページの「附錄」から57カット目左ページまで。写本では第2話の署名に続く附録として書かれ、題は目録の「貞享四年官令」による。57カット目左ページの末尾に「乙酉八朔 海棠菴謄寫」とあり、58カット目右ページから第4話「變生男子」が始まる。
- 校合
- 「文寶子の犬別帳に附て」は写本の表記。活字本系テキストは「附けて」とする。
- 注記
- 「又ハ望の者」「相聞候於前條無之者」など、写本の片仮名の「ハ」は原文欄にそのまま残した。
- 校合
- 「頃日ハ食物給させ不申樣に」は写本の読み。活字本系と同じ。
- 注記
- 貞享四年の触書と元禄八年の書付は、いわゆる生類憐みの令の一部と解した。文宝子は文宝堂こと西村寿卜で、『犬別帳』と『耽奇漫録』の附録の詳細は未確認。屋代越中守と美濃部弥兵衛の人物も未確認。
- 注記
- 篚底は手箱の底の意と解した。
AI試訳 / 専門家未校閲