雲亭日本古典図書室収録作品の一覧

ほりこてふ

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兎園小説 / 曲亭馬琴ほか 兎園会の会員 / 第八集 第14話 / 青李菴 角鹿比豆流

京の木辻村の子どもが食べるもちつつじの実の名「ほりこてふ」を伝え、馬琴が張子蝶の転かと考証する。

本文 現代語訳

文政八酉八月兎園の二 京 角鹿比豆流
文政八年酉の八月、兎園会のその二 京 角鹿比豆流
ほりこてふ
ほりこてふ
今は昔、卯月のころ、洛の西なる木辻村といふ所に数日遊びしことあり。その辺のわらは、もちつつじの実をとりて喰ふ。これを「ほりこてふ」といひ、また「猫の耳」ともいふとぞ。甚だにがきものなるを、なれては味よきにや。「猫の耳」とは、その形のよく似たるゆゑなるべし。「ほりこてふ」とは、いかにかくいふにや。
今となっては昔のこと、四月ごろ、京の西にある木辻村という所に数日遊んだことがある。そのあたりの子どもは、もちつつじの実を取って食べる。これを「ほりこてふ」といい、また「猫の耳」ともいうそうだ。ひどく苦いものだが、慣れると味がよいのだろうか。「猫の耳」というのは、その形がよく似ているからだろう。「ほりこてふ」のほうは、どうしてそう呼ぶのだろうか。
解按ずるに、ホリコテフは張子蝶ならん。ハ、ホ、音通なり。もちつつじの実は薄紅にして、いささか蝶の形に似たり。しかれども、その片なるところ厚くして、かつ堅し。譬へば張粘の蝶のごとし。ハをホと唱ふるは、越後上野人のヱをイと唱ふるがごとく、西京の方言かも知らず。また「猫の耳」といふも、猫の耳の裏の方に似たればなり。すべては猫の耳に似たるものにはあらずかし。
解が考えるに、ホリコテフは「張子蝶」であろう。ハとホは音が通じる。もちつつじの実は薄紅色で、いくらか蝶の形に似ている。ただし、その片方の部分は厚くて、しかも堅い。たとえていえば、紙を糊で貼り重ねた蝶のようなものだ。ハをホと発音するのは、越後や上野の人がヱをイと発音するのと同じで、京の方言かもしれない。また「猫の耳」というのも、猫の耳の裏側に似ているからである。全体が猫の耳に似ているわけではない。
乙酉八朔 著作堂追記
乙酉の八月一日 著作堂追記
原文 / 昭和女子大学本の字句を採り、正字体を保持、振り仮名を外す

文政八酉八月兎園ノ二 京 角鹿比豆流

ほりこてふ

今ハむかし卯月のころ洛の西なる木辻村といふ所に數日遊びしことあり其邊のわらハもちつゝじの實をとりて喰ふ是をほりこてふといひまた猫の耳ともいふとぞ甚にがきものなるをなれてハ味よきにや猫の耳とハ其かたちのよく似たる故なるべしほりこてふとハいかにかくいふにや

解按ずるにホリコテフハ張子蝶ならんハホ音通なりもちつゝじの實ハ薄紅にして聊蝶のかたちに似たりしかれどもその片なるところ厚くして且堅し譬へバ張粘の蝶の如しハヲホト唱るハ越後上野人のヱヲイト唱るがごとく西京の方言かもしらず又猫の耳といふも猫の耳の裏のかたに似たれバなりすべてハ猫の耳に似たるものにハあらずかし

乙酉八朔 著作堂追記

注

写本の位置
写本は3170の77カット目左ページから78カット目右ページまで。77カット目左ページの冒頭に「文政八酉八月兎園ノ二」とあり、その次の行に「ほりこてふ」と題がある。78カット目右ページの後半に著作堂の追記が続き、同じページで終わる。
校合
題は写本の本文も目録も「ほりこてふ」で、私家版の記事題「ほこりてふ」とは仮名の順が違う。原文欄と title は写本に従った。
校合
活字本系テキストの「兎圖之二」は写本では「兎園ノ二」。「解按ずるに」以下は写本でも本文と同じ大きさの字で、字下げはない。
注記
「張子蝶」には写本にハリコテフの振り仮名があり、外した。
判読保留
判読保留。「譬へバ張粘の蝶の如し」の「譬へバ」は写本では「譬ハ」とも読め、活字本系テキストの「譬へば」に従った。
注記
解は曲亭馬琴の名。木辻村は京都の壬生寺西にあった村と解したが未確認。もちつつじはツツジ科の低木で、実は蒴果。「張粘の蝶」は破れた障子に貼る蝶形の紙と解したが確かでない。

AI試訳 / 専門家未校閲