奇夢
菩提寺に盗賊が入る夢を見た納所の僧が、見回りに出て本当の賊と出会う。
本文 現代語訳
原文 / 昭和女子大学本の字句を採り、正字体を保持、振り仮名を外す
奇夢
いぬる八月廿五日の夜半小日向稱名寺〔淨土眞宗にて廣國山と號す。余が菩提所なり〕といへるに盜賊入りたり。このごろはその邊處々に賊の入るよし、人々心を付る折なりしに、其夜納所の僧義山といふもの、いかゞしけん子の刻過るまでいねられずありしに、丑の時ばかりにぬるともしらずまどろみし夢に、賊四人おし入り、各手に白刄を提て義山をおし伏せ、刄をつきつけ、住持の居間に案内せよと責らるゝと見て、おどろきさめぬ。總身に流せし汗をぬぐひても、轟くむねはなほおちつかず、かゝる時には用心にしくことなしとて、火そくしてあなたかなたを見めぐるに、本堂の入口のふすまをあけて□□□□待る人あり。
めぐれば見えざりし□、住持のみづから見ゆるゆゑ□□□□、あかりをけし出せいと、一人の盜賊あらはれ出でゝ忽刄をひらめかし、義山が背を刀のみねにて打ちしけり。□□くそあ□一刀、同類戸の外に大勢あり、命ををしくば住持の居間を案内せよとおどしければ、義山は夢か□□□□心地してあはて迷ひ□、賊をむかへひれふし□□□見えし□、この□の住持は侍らず、何なりともあるま□は出し□□、先づ刀をおさめあれと、おのれが□□を伸び□□の上まで押入ありしを見つけて□□義山又□□□□當寺□□□果て□□住持□□□おのれこの□え當寺□□□□□□□□□□この□□金子は絶えて□□と欺□課せし□□盜は□□□□□□□□□□□門前を□□よ□一人を捉へ□□□□□速やかに官府へ告げ申しければ、義山が□□□□ことの□□□は、賊は住持の居間へ入□□□危□を免れしは不可思議、如來の夢□告げ□□□□□と□□□□□家族□の稱名寺へ□□□義山みづから□思□□□□□義山が夢□□□□□□□あまりに暗合したるを奇夢と□□□、いぬる月の末つかた□□□□□□□□□□□□□□□□□□□又□□□□られ□□□□搜索のいとまなさに、此事を記してけふの兎園に充つるになん。
乙酉九月朔 海棠庵誌
注
- 写本の位置
- 写本は3171の18カット目左ページから20カット目右ページの2行目まで。18カット目右ページは白紙。20カット目右ページの3行目から第7話「鼠の怪異」が始まる。
- 注記
- 本文に披講者の号はなく、末尾の「海棠庵誌」と目録による。海棠庵は関思亮。
- 判読保留
- 19カット目右ページの1行目から左ページの末尾までの一段(「見めぐるに本堂の入口の」から「又□□□□られ□□□□」まで)は活字本系テキストにない。活字本系は「あなたかなたを搜索のいとまなさに」と続ける。写本ではこの二頁で、見回りに出た義山が本堂で盗賊と出会い、脅されて応対し、賊が去ったあと官府へ届け出たこと、夢と実際の出来事が暗合したことを記すと読める。この一段は写本だけから起こしたが、くずし字が崩れていて校合の相手がなく、判読できない字は□で示した。判読保留の箇所は次の注に列挙する。
- 判読保留
- 判読保留: 「ふすまをあけて□□□□待る人あり」、「めぐれば見えざりし□」、「住持のみづから見ゆるゆゑ□□□□」、「あかりをけし出せい」、「刀のみねにて打ちしけり」、「□□くそあ□一刀」、「同類戸の外に」の「同類」、「夢か□□□□心地して」、「あはて迷ひ□賊をむかへひれふし」、「この□の住持は侍らず」、「あるま□は出し□□」、「おのれが□□を伸び□□の上まで押入ありしを」、19カット目左ページの1行目から3行目まで、「□一人を捉へ」、「義山が□□□□ことの□□□は」、「危□を免れしは」、「如來の夢□告げ」、「家族□の稱名寺へ」、「義山みづから□思」、「あまりに暗合したるを」の「暗合」、「いぬる月の末つかた」、19カット目左ページの10行目。いずれも字形からの推定で、専門家の校閲を要する。
- 校合
- 「夜半小日向稱名寺」は写本の読み。活字本系テキストは「夜半に、日向、稱名寺」とする。小日向は江戸の地名で、称名寺は小日向にあった浄土真宗の寺と解した。写本を採った。
- 校合
- 「余が菩提所なり」は写本の読み。活字本系テキストは「菩提寺」とする。写本を採った。
- 校合
- 「心を付る」「子の刻過るまで」「白刄を提て」「責らるゝ」は写本の送り仮名。活字本系テキストは「付くる」「過ぐる」「提げて」「責めらるゝ」と補う。写本を採った。
- 注記
- 「火そく」は紙燭で、手燭のこと。「けふの兎園」は文政八年九月一日の兎園会の意。読みやすい本文と現代語訳で判読できない箇所は「……」で示し、訳を省いた。
AI試訳 / 専門家未校閲