佐久山自然石
箒川の石に日蓮の像が浮き出て、佐久山に参詣人が群がる。
本文 現代語訳
佐久山自然石
佐久山自然石
野州佐久山〔福原家采地。〕中町にすむ、「住吉や為八」といふもの、当文政八年乙酉の四月のころ、おのれが裏なる地面に、「鯉の魚溜を作る」とて、まはりの石垣に用ふる石を、ちかきほとりの箒川より、取り寄せける。そが中に、丸き石に、自然と、二分程も高く、仏像、現れ、左右に、日輪、月輪めくもの、あるを、見出だしたり。「奇なるものなり」とて、同州太田原城下の日蓮宗住持に見せけるに、「祖師上人の御すがたに、違ひなし」と驚嘆せしかば、此為八、瘤の、いできありしを、立願なせしに、頓に、いえけり。是よりの後、近国より聞き伝へて、日々、参詣、群集しつ。「このごろは、いとにぎやかなり」とて、福原家の臣原某が、右の石の搨本をおくりてかたりき。
下野国佐久山〔福原家の采地〕の中町に住む住吉屋為八という者が、この文政八年乙酉の四月ごろ、自分の裏の地面に鯉の魚溜めを作ろうとして、周りの石垣に使う石を近くの箒川から取り寄せた。その中に、丸い石に自然と二分ほど高く仏像が現れ、左右に日輪と月輪らしいものがあるのを見つけた。珍しいものだといって、同じ国の大田原城下の日蓮宗の住持に見せたところ、「祖師上人のお姿に違いない」と驚嘆したので、この為八は瘤ができていたのを願掛けしたところ、たちまち治った。それからのち、近国から聞き伝えて日々参詣の人が群がり集まった。「このごろはたいそうにぎやかである」と、福原家の家臣の原某が、右の石の拓本を送って語った。
乙酉仲冬集初冬念三 海棠庵
乙酉仲冬の集会、初冬二十三日 海棠庵
〔図一 南無日蓮大菩薩/野州那須郡佐久山箒川出現御影〕
〔図一 南無日蓮大菩薩/下野国那須郡佐久山の箒川に出現した御影〕
原文 / 昭和女子大学本の字句を採り、正字体を保持、振り仮名を外す
佐久山自然石
野州佐久山〔福原家采地〕中町にすむ住吉や爲八といふもの當文政八年乙酉の四月のころおのれが裏なる地面に鯉の魚溜を作るとてまはりの石垣に用ふる石をちかきほとりの箒川より取り寄せけるそが中に丸き石に自然と二分程も高く佛像現れ左右に日輪月輪めくものあるを見出だしたり奇なるものなりとて同州太田原城下の日蓮宗住持に見せけるに祖師上人の御すがたに違ひなしと驚嘆せしかば此爲八瘤のいできありしを立願なせしに頓にいえけり是よりの後近國より聞き傳へて日々參詣群集しつこのごろはいとにぎやかなりとて福原家の臣原某が右の石の搨本をおくりてかたりき
乙酉仲冬集初冬念三 海棠庵
〔図一 南無日蓮大菩薩/野州那須郡佐久山箒川出現御影〕
注
- 注記
- 図一は20カット目右ページの全面にある石の拓本の写しで、座した人の形の黒い影と、その左右上方に日輪と月輪にあたる二つの黒い点がある。右に「南無日蓮大菩薩」、左に「野州那須郡佐久山箒川出現御影」と楷書で書く。書き込みは右上から順に/で区切った。
- 写本の位置
- 写本は3166の19カット目右ページ4行目から19カット目左ページまで。19カット目左ページに「乙酉仲冬集初冬念三 海棠庵」の署名がある。
- 注記
- 「仲冬集初冬念三」は、十一月の集会の分を十月二十三日に出したという意味に読んだ。目録の日付は十月二十三日。
- 注記
- 佐久山は今の栃木県大田原市佐久山。福原家は旗本福原氏。箒川は那珂川の支流。
- 校合
- 字句はページ全体の画像で活字本系テキストと読み合わせ、異同は見つからなかった。原寸では確かめていない。
- 校合
- 私家版は1記事。
AI試訳 / 専門家未校閲