食と暮らし / 江戸
古のフードファイター
2026年10月17日更新
饅頭50個、飯68杯、蕎麦63杯。江戸の料理茶屋で開かれた会には、思わず目を疑う量が記録されています。いまのフードファイトと同じような催しだったのでしょうか。
AI生成によるイメージです記録を持ち寄った海棠庵も、量のあまりの多さに首をかしげています。驚いているのは、現代の私たちだけではありません。
01饅頭50個、飯68杯。何を食べた?
文化14年3月23日、両国柳橋の料理茶屋・万八楼で「大酒大食の会」が開かれたと、『兎園小説』は記しています。記録は酒、菓子、飯、鰻、蕎麦の組に分かれ、名前や年齢とともに飲食量が並びます。[S01]
菓子組の丸屋勘右衛門は、饅頭50個、羊羹7棹、薄皮餅30個に茶19杯。飯連の三右衛門は飯68杯。蕎麦組の山口屋吉兵衛は63杯です。ただし、参加者全員ではなく、目立った人の分を書き抜いた記録です。[S01]
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02記録した人も、疑っていた
この話を持ち寄った海棠庵は、会場にいたわけではありません。「その会に行って見たが間違いない」という人の話を伝えています。それでも、飲み食いの量には限りがあるはずだと、「いと疑しきまでなり」と書きました。[S01]
文献に数字が残っていることと、その数字どおりに食べたことは別です。大きな数字を、そのまま実績として受け取ることはできません。
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03今のフードファイトと同じ?
『兎園小説』には順位、勝者、賞、制限時間、審判の記述がありません。料理茶屋に人が集まった大酒大食の会ですが、何をもって勝ちとしたのかは分かりません。[S01]
同じ会は『視聴草』『藤岡屋日記』『文化秘筆』にも記録されています。国立国会図書館月報の解説は、写しによって名前や年齢、飲食量に違いがあると紹介しています。ひとつの数字だけで、会の全体像を決めるのは難しそうです。[P01]
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04驚きと疑いが、一緒に残る
「こんなに食べた人がいた」と伝えたい気持ちと、「本当にそんなに食べられるのか」という疑い。その両方が、この記録には残っています。江戸の人も驚いた食の話を、書き手の言葉と一緒に読んでみましょう。
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兎園小説
作者:曲亭馬琴ほか、兎園会の会員。この話は海棠庵(関思亮)の披講
原文(該当部分)
一、同六盃半 芝口 鯉屋利兵衛 三十 その座に倒れ、余程の間休息致し、目を覚まし、茶碗にて水十七盃飲む。
(雲亭が読みやすく整えた本文。字体と句読点は写本そのままではない。写本の字体を保った原文欄は次のとおり)
一同六盃半 芝口 鯉屋利兵衞 三十 其座に倒れ、余程の間休息致し、目を覺し、茶碗にて水十七盃飲。
現代語訳
同じ盃で6杯半。芝口の鯉屋利兵衛、30歳。その場に倒れ、しばらく休んで目を覚まし、茶碗で水を17杯飲んだ。
訳者・提供元:雲亭によるAI試訳。専門家の校閲は未実施(本文データの状態欄は「AI試訳 / 専門家未校閲」)。
本文翻刻
ここに引用した部分以外は、原典でお読みいただけます。
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出典・訳について
兎園小説
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- 作品名:兎園小説
- 著者・編者:曲亭馬琴ほか、兎園会の会員。この話は海棠庵(関思亮)の披講
- 巻・章・話番号:第十二集 第4話「大酒大食の会」
- 採用した版・底本:昭和女子大学図書館 桜山文庫『兎園小説』12集(写本)。請求記号 桜914.5/37/7。雲亭の翻刻は、この写本の画像を読み、Blog鬼火(藪野直史)の正字正仮名版電子テキストと校合した(校合のみで、本文は転載していない)
- 翻刻提供元・URL:雲亭の本文データ(toen-12-04、改訂 untei-draft-toen-20260911)。画像は昭和女子大学の ro-da https://www.ro-da.jp/swu/contents/3172
- 原文の頁・丁・表裏・画像コマ:画像は3172の11カット目左ページから14カット目右ページの前半まで。丁の数え方と表裏は未確認
- 引用・再利用条件:写本画像は CC BY-NC。営利利用は館への確認が必要。翻刻と現代語訳は雲亭の作成で、専門家の校閲は未実施
表記・訳の注記
- 「同」は、直前の行の「三升入盃」を受ける。
- 「余程の間」は、かなり長いあいだ。雲亭の訳では「しばらく」とした。
- 写本は日付を「丙丑」と書くが、1817年の干支は丁丑である。Blog鬼火の電子化に、丁丑が正しいとの注がある。この箇所は本引用の範囲外。
- 他の人物の記録と末尾の海棠庵の文は、S01の同じ話の別の部分で、本引用には含めていない。第二節の記述は、本文データのこれらの部分による。
引用の「その座に倒れ」は、飲酒の後に倒れたという記述です。記録に出てくる量は、実際に確認された安全な量を示すものではありません。書き手がどこで見聞きし、どこで疑ったのかにも注目して読んでみましょう。
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出典と原典の画像
元の記録や研究を、自分の目で確かめられます。
原典の画像を開く
画像 I01 兎園小説 12集
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昭和女子大学図書館 桜山文庫 / 写本。第十二集の画像は67カット / 3172の11カット目左ページから14カット目右ページの前半まで。丁は未確認
資料の書誌
該当箇所の画像は未確認です。
参考にした研究・関連文献
論文 P01 本の森を歩く(第29回)江戸時代の大酒飲み、大食い
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川本勉 / 国立国会図書館月報 / 744号、2023年4月 / 19〜29頁
記事で参照した文献
書誌・DOI | 本文掲載ページ | 本文PDF
論文 P02 隅田川流域の料理茶屋における文化活動について
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小山周子 / 東京都江戸東京博物館調査報告書 32(隅田川流域を考える) / 32、2017年 / 23〜54頁
記事で参照した文献
本文PDF
論文 P03 曲亭馬琴研究:江戸出版文化と異国表象を通して(第二部第四章の兎園会と『兎園小説』の節を使用)
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金学淳 / 筑波大学 博士学位請求論文 / 2016年度 / 204〜212頁(該当節)
記事で参照した文献
本文PDF
論文 P04 曲亭馬琴『兎園小説』の真偽:うつろ舟の蛮女と大酒大食の会
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佐藤秀樹 / 三弥井書店(単行本、ISBN 9784838233977) / 2022年6月 / 全202頁。第六章が大酒大食の会
関連文献(本文未確認)
書誌・DOI
解釈と、まだ確かめられていないこと
飲食量は『兎園小説』に記録された数字で、実測値として確認したものではありません。ほかの写しとの違いや伝聞である点を踏まえて紹介しています。
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